ブダペスト市内から、地下鉄とバスを乗り継いで、3時間で着く街、パクシュ。静かな街です。
前回斎場と同じ、イムレ・マコヴェッツ先生の建築作品。1987年完成なので、斎場の10年後。
なまめかしい曲面の鐘塔。鳥居のように、この下をくぐって入ります。
全体の3次元曲面を垂直に切り落とした開口部分や壁部分を、木材で枠取りして、形態の破綻がないように注意されている事がわかります。
右端の屋根の棟の梁は飛び出させて、キール(背骨)のように表現。
屋根、壁の仕上げ材料は、自然石のスレート貼り。うろこのように。
例によって鍵が閉まっていて、30分ほど外から眺めていて、さてあきらめて帰ろう。と思っていたら、管理人さんが来て外部の掃除を始められたので、お願いして入れてもらえました。 昨日に続き、とても幸運。ハンガリーの建築情報はWEBサイトにも、書籍にもなく、苦労します。とりあえず、行ってみるしかないか、という感じです。
入ったら、これです。フォルムと同じ内部空間。両サイドにはドーム形の小部屋があり、礼拝室と連結されています。空間の中に空間を入れています。全部木造。
祭壇の見上げ。昇天するキリスト像の両サイドには、鳥の羽をつけた天使。泣きたくなる感じ。
上部のトップライトは黄色の薄い色がついたステンドグラス。この模様(対のS字形2つ)は、ハンガリーの民族芸術に見られる形だそうです。日本の三手先斗供数とは異なりますが、梁から3つの腕を伸ばして、トップライトのフレームを支えています。
皮をはいで磨いただけの丸太が内部の柱。この柱の上部を角柱でつないでいます。
この部分、柱から伸びている板材は、構造ではなく装飾ですが、継手は少しだけ、かませて釘打ち止め。釘は見えたまま。材料自体の仕上げが荒々しいので、ジョイントもブルータルです。
両サイドのドームの小部屋のインテリア。部屋の上部の丸穴から、礼拝室自体のトップライトが見えて、面白いです。
民族的、神秘的、有機的などという表現で、この建築は語られています。言う事は簡単ですが、では、この建築のどこがそう思わせるのか、を考えることが大事だと思います。いくつかある木彫りの像や塔の先端にある太陽と月のオブジェが表現するイコン、曲がった木材、自然材料の荒々しい仕上げ、構成としてのシンメトリー形式、有機的な形態+内部空間などなどが、総合的に体験する人に与える印象。 実体のある外観や内部空間で、あるイメージを伝えることが建築家の仕事ですが、そのために物、形態、空間、偶像、光、色などを3次元で考えて図面を描いて模型で確かめて、現場に入る。
建築は完成するまでには数多くのクリアすべきハードルはありますが、建築の表現には無限の可能性があって、使う人に喜んでもらったり、この建築のように訪れる人に感動を与えてくれたりするので、 「建築を設計する仕事」が、面白い事をあらためて確認させてくれる建築でした。
しかし、中に入る事が出来て本当に良かった。学生達にまた違う空間を紹介する事ができます。
追記: この建築を見たいと思ってハンガリーに来る建築少年へのアドバイス。ブダペストでパクシュの地図を入手することは困難です。電車はありません。グーグルの地図にはブダペストから到着するバスターミナルの位置が出ていないので、下の地図を参考にしてください。川とバスターミナルの位置を確かめて赤線に沿って歩くと、2キロくらい15~20分で到着。この地図は、バス停近所のレストランで借りたパクシュ市内電話帳に載っていたもの。ブダペストからパクシュへのバス乗り場はメトロ3番のNepliget駅。1時間毎に発車。所要2時間5分。片道2200Ft。
内部空間の画像、心がザワザワと震えました。
自分の表現したいことを貫き通す。
ツールが建築であってもそれ以外のツールであったとしても。
「表現すること」の大切さを改めて思い知らされた気がしました。
私もいつか本物を見てみたいです。
無限の可能性があるのは、どの仕事でも同じですね。倉橋さんのお仕事の中で、素晴らしい表現をしてみてください。楽しみにしています。