アドルフ・ロース(1870-1933)設計の、ロースハウス。1910年。ロースも分離派の動きの時代の建築家ですが、彼は「装飾は原始人の刺青のようなもので、文化水準が低い事を示すもの」として、徹底的に装飾を排除しました。「装飾は罪悪である」というタイトルの著書も出しました。その彼の作品がこの建築。
今見ると一見、極めて普通の建築なのですが、建てられた当時は、あまりにも外観の装飾がないので、「眉のない建築」として、悪評をかいました。「眉のない」状態は、確かに無表情になりますが、それも表現の一つ。
敷地がハプスブルグ家の居城、王宮の広場の前。
ロースは、この建築の右にあったミヒャエル教会(1220-)には配慮したそうです。
ポルティコ部分。柱は大理石。ロースは、装飾をつけない代わりに、仕上げ材料として、大理石や木材や鏡を多用した建築家。
1階には銀行が入っているので、写真撮影は禁止。外装・内装共に、石と木、金属を素直に使って素材感・質感は大事にしています。市民から大反対を受けたので、彼は「装飾と戦う新しい近代の建築家」 として、一躍有名になりました。多くの市民から反対を受けても、思想を曲げない勇気。
もう一つ。ウィーン中央貯蓄銀行ファボリーテン支店。1979年。建築家ギュンター・ドミニクの設計。僕は若い頃はドミニクの建築に魅かれていました。決して、脱構築主義の思想ではなく、生命・生物をテーマにして設計を行っている建築家です。
確かに周囲の風景とは、まったくなじまないで、異化しています。
骨の関節のような金属のファサードが、下層部分で口を開くように、徐々に変形していくデザイン。迫力あります。
角もあるし。 側面の壁には上から赤いテープが落ちてきて血管が詰まったように絡まっています。
玄関の外部部分。内部は、血管やリンパ管や骨や、巨大な人間の手などをイメージする異様なインテリア空間。ここも写真は禁止です。
当時としての装飾を排除した表現と、人間・生命の表現。いずれも市民から反対を受けたものの、現実に建築されて今でも残っています。
表現は自由。でも思想のない表現は長くは続かなく、飽きられるのでそのうちに解体されます。