ヘルシンキ市の都市計画局が一般市民へ向けて情報を発信している拠点、名称は「ライツリ」。市内繁華街の広場に面しています。下はその広場。バス乗り場が60もあるターミナルの横。
古い建築をリノベーションした施設。
下:ヘルシンキ市の全体の模型。
ヘルシンキ市の人口などのデータと、ドイツ、ベルリン市との比較。今は、ベルリン市の都市整備情報も展示。理由は、2つの都市で協力して建築家や都市計画局同士で交流・情報交換しながら進めているから、との事。
市内で進められている、たくさんの再開発プロジェクト紹介のパンフレット。
この施設は、都市計画に関する市民とのミーティングの場所でもあります。椅子の座面にも市の地図をプリント。
さて、本当の、ヘルシンキ市都市計画局。ここに勤務されている、京都大学で町家を研究し、博士学位を京都大学で取得した、建築家リイタ・サラスティさんにお会いして、しばらくお話を聞きました。リイタさんを紹介してくれたのは、アアルト大学建築大学院生の坂口大史君。坂口君は学生をしながら、実際にこの街で設計実務を行っている頼もしい若者。
リイタさんには、この街の建築に関するさまざまな規制や、開発プロジェクトのプロセスについてお話を聞きました。
まず、紹介されて、いただいた資料はこの本。
日本での展覧会を契機に出版されたヘルシンキの建築に関する本。この本の事は知りませんでした。15年前のものですが、建築に関する資料、システムは変わっていないから、と頂きました。A4版260頁。
この本や、ヒアリングした話をまとめると、
1.市内の都市計画的プロジェクトは、この部署がセンターとしてコントロールしている。主にはフォルム、規模、デザイン。建築単体に関する許認可は別のインスペクション部署が担当。(構造や法規、性能)
2.市内地区ごとのデザインについて、歴史的な分析(リイタさんの責任担当)を行った上で、新築・改修を行う際にどのようなデザインにしたほうがいいのか、するべきなのか、役所からの視点として行ってほしいのか、に関するガイドラインブックを作成。建築の形、窓のガラス割りの構成、外装の色、インテリアデザイン、ドアの取っ手にまでいたるデザイン詳細について分析し、推薦するデザイン例について、細かく記述した報告書を作成。ある建築単体の話ではなく、あくまでも周辺環境を含めた視点からの推薦するデザインに関する方針を作成。その労力たるや、すごいです。内緒の内容もあるので、詳細の紹介はできませんが、例えば「使用する色」に関して言えば、色番号を20程度指定して、この中から選んだほうがいいでしょう、みたいな内容。日本で景観規制を行っている京都の風致地区の規制現状は、「壁の色は塗り壁の土色を基本とし、屋根は黒瓦の色もしくはグレー。」みたいな漠然とした規制ですが、ここでは、明確に色番号リストを提示。したがって、美的センス・見識が必要なので、局には50人以上の「建築家」資格を持つ人間が常駐勤務。新築の場合も、改修工事の場合にもこのガイドラインブックは有効に使用されます。 どうしてそこまで行うの?と聞くと、「街と建築の価値を維持するため。」 明快です。
3.プロジェクトは市民参加システムを取られているので、役所が決めたマスタープランや、建築の内容規模について、市民の意見や各種団体組織からの意見を聞いて、修正を加えたり、場合によれば中止する事もあり。港にグッゲンハイム美術館を誘致するプロジェクトは中止になった。
役所として強い権限を持っていながら(開発する敷地の多くは公共的な性格を持つ土地なので)、自身の活動に謙虚である姿勢を感じました。公共の建築専門プロフェッショナルな集団として、良い!と結論した内容を決めて提示しますが、あくまでも主人公は市民であることで、自身のブレーキ機能も持ち合わせた組織。規模が比較的に大きな地区プロジェクトは10年~15年かけて進めているそうです。都市的マスタープラン作成、部分プラン作成、ディテール作成、住民意見聴取、それを踏まえた調整などなど。大変な仕事です。日本と異なるのは早い時期からの、「市民」への情報公開だと判断しました。この意味で上記の市民への情報を公開する場所は大切なのです。
これは、
「どのようにして、街づくりが進んでいくのでしょう。そしてどうのようにして皆さんはこの街づくりに参加していけるのでしょうか。」
を、解説するパンフレットの本。
公共が関わる開発プロジェクトの進められ方と、市民の参加の仕方の説明。親切丁寧です。
例えば、パシラ地区の再開発。この地区では高層建築をOKとする指針。カラー版106頁。
ボリュームスタディのCG透視図。きちんと鳥瞰写真へのコラージュで。
窓と壁の比率の推薦バランス表。使用する素材、パターンのリストもあり、
のような内容です。
また、市民に住んでいる自分の街を紹介する活動も実施。エリア調査が実施された後、新規プロジェクトを検討している間には、地区毎の特色、魅力を紹介していっています。これは、アラビア地区の紹介。歩いてみましょう。この種のパンフの総称は、「建築の小道」地区にある建築の特徴を歩くルートを入れながら紹介しています。市民に向けた説明会や学習会・ガイドツアーには、この都市計画局の建築家が出向いて行って説明されるそうです。
アラビア地区は、アートの街づくりが実施されていて、建築内部、外部に取り込まれているアート作品も紹介。
ヘルシンキはまだ200年の街でヨーロッパの中の街としては歴史が浅い分、これから先の100年、200年を考えているように思いました。200年先の街の姿のために、今の規制をつくっていて、200年先に価値を持つような新しい街を生み出していく、という姿勢。人口60万人に満たないこの街の役所で仕事として、都市・建築デザインを見守っている、美的センスと歴史への造詣を持ちあわせた建築家が50人。都市の人口規模でいうと約3倍の京都市都市計画局に、何名の建築家がいらっしゃったでしょうか。街づくりは息の長いプロジェクトになるので、現在、未来共に素晴らしいような環境を、子ども達に残していけたら、と願います。 (106)